目を閉じて少しだけ闇に逃げる
ずきずきと広がる痛み。
それでも、目からの刺激が減るだけ、痛みが薄まるような気がして。
その、一瞬。
そっといたわるようにのばされた腕の奥から
「……しんどい?」
包み込むような、声。

「大丈夫、だよ」

微笑んで見せても
真偽を図るようにじっと見つめた後で、
今度は探るように
「頭、痛い、?」

なんでわかるの、って目を見開いた私に
心配くらいさせてくれよって、完璧に隠さないでくれよ、って困ったように微笑んで。
……ああ。
やせ我慢なんか通じないんだね。


だから私が かなわない人。
社会人一年目。
とある人に心底、嫌われていた。
社会人としても人間としてもまだまだ未熟だったから、きっと、自分が至らないんだろう、って、思って
できる限り頑張った。
それでも、あからさまに、嫌われていた。
「あの子は人間としてだめだ」という陰口すら言われていることも、わかっていた。
悔しくて、情けなくて、何度も泣いた。

二年目に入って、半年ほどしたとき。
『普通』に、接されていた。
何が変わったでもなく、まだまだできていないことも多いにもかかわらず、
以前だと何の話を誰としていても目も合わせてくれる気配すらなかったのに、
同じような話で、自然に話をふられた。
恐ろしいほど、『普通』だった。


思わず相談した先輩に、ため息交じりにこう言われた。

「あの人は、『嫌いな人』がいないと仕事できないみたいなんだ」

「私も入った時、嫌われてたし陰口も散々叩かれた。でも、あなたが入ってからピタリとやんだ。標的があなたに代わったから。彼女が今嫌いなのは別の人だから、標的から外れたあなたには、普通に接してくるんだ。だから、これからは普通に接するといいよ。逆に、おどおどしてたらまた『あれ?』って思われるよ」


最初は、安堵。
次に、なんともいえない違和感が心の中でもりあがった。

あれだけのことを言いふらして。
あれだけのことをして。
近寄るなと、嫌いだと、目の前から消えてくれと言わんばかりの仕打ちをして。
それでも、自分の気持ちひとつでそれだけ嫌っていた人にも普通に接する、なんて……
嫌っている時は近寄ると怒るのに、
気まぐれで嫌わなくなったあとは、近寄っていかなければ、自分の言葉に反応してくれなければ怒るなんて。


さみしい人だ、と、思った。
そんな風にしか生きられないなんて。
無意識にでも、必ず『嫌いな人』を作って、その人を憎む力で仕事をするなんて。


好きより嫌いのほうが簡単で
愛するより憎むほうが易しくて
包む言葉より傷つける言葉のほうが口をついて出てきやすい
この世界なんて、所詮、そんなものだけれども
簡単に、自分に易しく生きると、大切なものを、──忘れていきそう。

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